シュガーはお年頃

あなたが一番好きな漫画家は誰だろうか。そう問われてすぐに答えられるだろうか。僕は答えられる。二宮ひかる、という、特別に有名なわけでも大いに評価されているわけでもない、とある女性漫画家だ。

シュガーはお年頃 1 (ヤングキングコミックス)

シュガーはお年頃 1 (ヤングキングコミックス)

数多くの短編集と、「ナイーヴ」「ハネムーンサラダ」「ベイビーリーフ」といった珠玉の長編作品を輩出している彼女の作品は、端的に言って「いやらしい」。女性だから描ける女性視点の恋愛と、女性なのに描いてしまう男性視点の恋愛の齟齬(と偶然の結び付き)を、カラッとしていながらウェットに描写する、そんな作品が多い。その一方で、ひたすらに孤独を恐れる(友達がいなかったりする)女性が描かれるのは、たぶん作者自身の体験に即したものだ。どちらかというと、僕は後者のモチーフに大きく心揺さぶられている。
さて、そんな作者は2005年あたりからしばらく漫画が描けない、いわゆる「気絶期間」が続いていたわけだが、いくつかの短編を経てようやく長編が走り始めた。それが「シュガーはお年頃」である。スターダスト☆レビューのデビューシングルと同じタイトルを持つ本作は、リハビリのためか、かつて多かった社会人やOLの話ではなく、(ハネムーンサラダ以降に増えた)学生時代を舞台にした、どこか突き抜けた感のある作風だ(そして毎回、主人公が古い歌を歌うw)。二宮らしいモチーフは頻出しているのだけど、すべて一回転してしまったというか、メタ的というか、かつての「二宮ひかる」的要素を全てネタ化しているような感覚に陥る。それはたぶん、これまで男性主人公が担ってきたポジションを、「娼婦になりたいガサツな少女」が担っている、という捩れに端を発している。ヒロインは二宮作品らしい少女であることが、余計にこの捩れを際立たせている。
ここにはかつて、僕が好きだった二宮はいない。だが、妙な突き抜け感と捩れを持った、随分と不思議な方向を向き始めた二宮がそこにいて、どうやらこれはこれで嫌いではない。幸いにして、2巻以降も続くようだ。この微妙なバランスがどこまで続くのか、期待したい。